即戦力がつく英文法

『即戦力がつく英文法』(DHC) の内容を補足していきます。

ハリデイ流機能文法と『即戦力がつく英文法』の関係

ハリデイ流機能文法を枠組みとして『即戦力がつく英文法』を書きましたが、本家の用語をそのまま使うとかえってわかりにくいので大幅に変えています。実際、(今は変わったと思いますが)ハリデイ流機能文法を公教育の英文法に応用することにしたオーストラリアのサウスウェールズ州などは、用語は従来からの文法用語のみとし、ハリデイ流のprocess(動詞のこと)などは一切使ってはならないとのお達しを出したほどです。

本書でも既存文法書との兼ね合いも考えて用語と構成を工夫しています。

まずハリデイ流機能文法の特色のひとつとして、ワンセンテンス単位でテキスト(コミュニケーションに供されるひとまとまりの言葉)を考えずに、それが使われるコンテクストとの兼ね合いを考えるという姿勢があります。つまり以下の図で示す通り、言葉を使うということ=コンテクストに合わせて言葉を使うこととなります。

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上の黄色の部分をご覧ください。ここで示されているのは、人は言葉を使うに当って、「何の話?」「相手は?」「伝達手段は?」といった要素から成る言葉の使用環境を考えながら、ものを言ったり、書いたりしており、その使用環境に合わせてどういう単語をどう組み合わせるかを考えているということです。

第1に、「何の話」という側面では、「こういう話をしたい」という目的意識の下、「何がどうした」のかを伝えるために、しかるべき動詞を選び、対応する登場要素を並べ、さらに必要に応じて「いつ、どこで、どのように、なぜ」といった補充情報(副詞句)を添えます。この側面に焦点を合わせたのが本書の第1部です。「正確に」ということの意味は、英語ユーザーに間違いなく言いたいことを伝えるためには、動詞、名詞、副詞句などを英語の流儀で正確に配置することを要しますよということです。

第2に、「相手は?」という側面では、「相手との関係を考えて調整せねば」という目的意識の下、情報を伝えたいのか、情報を求めるのか、はたまた相手に何か提供するのか、あるいは相手からもらいたいのかに応じて、英語が用意している文法形式を選ぶ必要があります。また、相手によっては、助動詞で言葉の調子の強弱を変えたり、あるいは、probablyなどで発言を控えめにして相手が話をしやすくするといった気遣いが要求されます。こうした相手への気遣いに基いての文法上の選択肢をお見せしているのが第2部です。

第3に、「伝達手段は?」という側面では、unified whole(首尾一貫したひとまとまり)の言葉を紡ぎ出したいという気持ちに立って、話し言葉か書き言葉かに応じて、手順どおりに展開することになります。この場合、相手が友だちであれば、気楽な接続表現で済ますことができても、かしこまる必要があればフォーマルなものを選ぶという具合に、第2の側面とけっこう重なってもいます。

実際、この3側面はばらばらに扱うべきものでなく、同時並行的に扱われるべきものです。例えば、話す内容やプレゼンという伝達手段が同じでも、聴衆の性格が違えば、おのずと言葉の使い方も違ってくるという具合に、常に三要素は兼ね合いを考える必要があります。

ちなみに、上の用語を英語で言うと、こうなります。

▶ コンテクスト register

何の話? field

相手は? tenor

伝達手段は? mode

▶ 言葉の役割 function

こういう話をしたい ideational function

相手への配慮 interpersonal function

「まとまり」の作出 textual function