即戦力がつく英文法

『即戦力がつく英文法』(DHC) の内容を補足していきます。

Action-Oriented Approachとは何か

『即戦力がつく英文法』の英文タイトルは、English Grammar: An Action-Oriented Approachとなっていますが、actionと言っているくらいですから、ヒトが主役という意味です。

伝統的なアプローチは、ヒト抜きと言うのか、英語が使われる実際の環境から切り放した上で、文法体系をまるでひとつの物体かのように捉えています。そして、形式面から分解し、しかも、一文単位で英語がどうなっているかを説明しようとします。(そうは言っても、この道は、文法用語や基本英文法を知る上で一度は通る必要があります。それに、状況はどうか、手順はこれでいいのかといった「変数」を考える必要がないので初学者の学習負担が軽くて済むというメリットもあります)

対照的に、Action-Oriented Approachは、人間中心で、文法の使い手である「ユーザー」を起点とするアプローチです。ヒトは英語を使って、何かしようとする存在であり、それに向け、どういう英語が必要かを見極め、身につけるのが自然だという発想です。

ここでは、いわゆる英文法は、自分の目的を達成しようというヒトが、一定の状況の下で、目的達成に必要な英語を使う上での要素のひとつでしかありません。ヒトが自分の置かれている状況(例えば、職場なのか家庭なのか)を意識しながら、その状況で求められる運用条件(例えば、相手の知っていることから切り出し、新たな情報を伝える)を満たす形で、英語を使うにあたっては、英文法上、どういう選択肢があり、かつ、その選択をすると、相手にどう影響するのか(例えば、相手の発言を封じたければ切り口上を使うという具合に)を知っておき、使いこなせるようにする必要があるということです。

そこで、『即戦力がつく英文法』は、第1部で、文法上の選択肢を説明し、第2部で、選択が状況に見合っているかを判別できるよう社会言語的な構図を説明し、最後に、第3部で、英語ユーザーの共通認識である、実際的運用能力としてどういうものが要求されているかを説明しています。まずは既知の事項で切り出し、「つながり」を確保しながら、伝えたい新情報を織り込んでいきながら「まとまり」のある英語と認識してもらえるためにはどうしたらいいかという手順の問題です。

この本は、ヒトが英語を使って自分の目的を果たすという現実に即して、そのプロセスに必要な英語は何かという視点で伝統英文法を再構成しているので、けっこう大変です。基本的英文法だけでなく、状況(コンテクスト)や英語独特の手順にまで気を配る必要があり、その分、英文法の知識だけで臨もうとすると間に合わなくなるからです。そういう付加的要素があるので、伝統的な文法に慣れきっている方々には抵抗があったり、理解しにくいのでしょう。しかし、CEFR自体、B2(中級の上)をクリアするためには必要な要素であり、これを超えると一気に視界が開けてくるものだと明言しています。

CEFRが上で説明したような構図にしたがってコミュニケーション能力を捉え、ヨーロッパ域内でのヒト・モノ・カネ・情報が移動が盛んになるよう言語観の統一を図りはじめた1970年代でのヨーロッパでも、いわゆる文法訳読を重視する人々からかなりの抵抗があったと言います。しかし、今ではそれも克服され、コミュニケーション能力=単語・文法知識+社会言語能力+実際的運用能力が事実上の標準になっています。

だからこそ、ケンブリッジ英検や、そのビジネス英語版であるBULATS、さらにはフランス語やドイツ語の検定なども、そろってCEFR準拠を打ち出しているのです。

読みこなすのが大変だとは思いますが、ご自分の英語力が頭打ちだと感じている方にこそ現状打破のために読んでいただきたいと思っています。オルテガ・イ・ガセット(哲学者)も、Effort is only effort when it begins to hurt.(辛いなと思い始めるくらいでないと、そもそも努力していると言えない)と言っているくらいですから、一度は辛いのを我慢して通読してみてください。