即戦力がつく英文法

『即戦力がつく英文法』(DHC) の内容を補足していきます。

即戦力英文法の下地である機能英文法について(1):コンテクスト

『即戦力がつく英文法』は、ハリデイ流の機能英文法 (systemic functional grammar) の独特の用語を避けながらも、その趣旨を織り込んだつもりです。そのハリデイ流機能文法の柱のひとつがコンテクスト、つまり言葉が使われる環境です。

ハリデイ自身、コミュニケーションに供されるひとまとまりの言葉=テキストを指してa representation of a sociocultural event, embedded in a context(コンテクストに包摂されている社会文化的事象の表れ)と言っているくらいです

コンテクストというものがあるからこそ、小説の一節を見せられれば小説とわかり、また、契約書の一部を見せられた人は、(普通の英語ユーザーである限り)「ああ、小説か」「ああ契約書の一部だな」とわかるわけで、その意味で、英語のテキストの本質と言えます。

コンテクストは、具体的には状況・目的・話題)のことで、図解すると、こんな感じです。ポイントは、実は単語力や文法知識がこの3つの分野にまたがっていることで、『即戦力がつく英文法』では、そのつど三方向から見当するようではゴタゴタするので、三部の構成に分けましたが、実はどんなテキストも常に「何の話?」「相手は?」「メディアは?」という三方向から考えるべきで、この3つはいわば同時並行的に存在する要素と言えます。(普通に話す人は、日本語でもそうですが、同時並行的にこの三要素を処理しているわけで、改めて人間の言語能力はすごいと感心させられます)

 

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上の「何の話?」に対応しているのが本書の「第1部:正確に英語を使う」、「相手は?」に対応しているのが「第2部:「適切に英語を使う」、「メディアは?」に対応しているのが「第3部:手順どおりに英語を使う」です。

具体的コンテクストというのは上で説明したとおり、状況・目的・話題」のことで、例えば、これに応じて、He put on his jacket in a hurry.と言うのが普通か、あるいは、He put his jacket on in a hurry.と言った方が(英語感覚として)自然なのかが決まってきます。

この「具体的コンテクスト」を指してハリデイ流機能文法は registerと呼んでおり、それを規定し、そこでのregister全体の守備範囲ないし射程距離を画する三大要素として field, tenor, modeを挙げていますが、本書では、fieldを何の話なのかというコンテンツとして捉え、tenorを人間関係のゆえに必要となるインターラクション上の適切さ、そして、mode を話し言葉か書き言葉かという伝達手段の違いとして捉え直しています。

このあたり、一番参考になったのが、 Débora FigueiredoのContext, register and genre: Implications for language educationという論文でした。

抽象的/社会的コンテクストは、ハリデイ流機能文法では genre と称されています。端的には説得する文章では、起承転結では通用しないよという英語文化に由来する「縛り」です。

文化的言語感覚は、日本語では「なる」動詞が多用されるのに、英語だと「する」動詞が好まれるとか、あるいは、英文ライティングでは「書き手責任」で解釈の余地を残さないよう気を配るのに、和文ライティングだと「読み手責任」であって解釈の余地が敢えて行間に残されるといった文化の違いに由来する好みの問題です。さらには日本語がハイコンテクストであり、何から何まで言葉に出して言わないのに、英語がローコンテクストであり、すべてを言葉に託そうとするという違いも、こういう言語観の違いを反映しています。